1. はじめに
「軽くてよく曲がるハッチバック」の先に、コーナーの立ち上がりでの応答性やコースアウトへの取っ付きにくさまで手に入れたい人向けの一台。
街乗りの信号発進から高速合流まで扱いやすいターボ特性を持ちながら、4WDというZC33S(スイフトスポーツ)にはない駆動方式で、雨天やワインディングでの踏ん張りを求める人にも向く。
ラリー参戦を前提にした素性ゆえの重さや価格帯の見えにくさなど、割り切りが必要な部分もある。
2. 基本スペック
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 全長 | 3,995mm |
| 全幅 | 1,805mm |
| 全高 | 1,455mm |
| ボディタイプ | コンパクトカー・ハッチバック(3ドア)※出典: トヨタ公式サイト車両情報ページ |
| 駆動方式 | 4WD(アクティブトルクスプリット4WDシステム) |
| エンジン | G16E-GTS型 直列3気筒インタークーラーターボ(1.618L) |
| 最高出力(ネット) | 224kW(304PS)/6,500rpm |
| 最大トルク(ネット) | 400N・m/3,250〜4,600rpm |
| 燃費(WLTCモード) | 10.8km/L(GR-DAT・8AT)/12.4km/L(6MT) |
| 乗車定員 | 4名 |
| 価格帯 | ※本体価格の記載なし(下記コラム参照) |
車両重量はグレード・トランスミッション・Aero performance packageの有無で細かく変わる。主要な組み合わせのみ抜粋すると以下の通り。
| グレード | GR-DAT(8AT) | 6MT |
|---|---|---|
| RZ(標準) | 1,300kg | 1,280kg |
| RZ + Aero performance package | 1,310kg | 1,290kg |
| RC(標準) | 1,260kg | 1,240kg |
| RC + Aero performance package | 1,270kg | 1,250kg |
3. エンジン・走行特性の解説

※上のグラフは公表スペック(最大トルク400N・m/3,250〜4,600rpm、最高出力224kW(304PS)/6,500rpm)に整合するよう作成した推定曲線であり、実測データではない。中間回転域のつながり方など細部の形状は実車と異なる可能性がある。
最大トルク400N・mは3,250〜4,600rpmという1,350rpm幅のプラトーで「面」として発生する。信号待ちからの発進では、アクセルを踏み込んでいけば3,000rpm台前半でほぼ最大トルクに乗るため、もたつきを感じる場面は少ない。高速道路の合流でも、本線速度に乗せる加速でこのプラトー域を通過しやすく、短い合流車線でも十分な押し出し感を得やすい。
ここで注目したいのは、トルクのプラトーを抜けたあとの伸びだ。プラトー終端の4,600rpmから最高出力発生回転数の6,500rpmまでは約1,900rpm分の余地があり、その間もトルクこそ緩やかに下がるものの出力(トルク×回転数)は伸び続ける。スイフトスポーツZC33S(本サイトの別記事参照)の最高出力発生回転数が5,500rpmだったのに対し、GRヤリスは1,000rpm高い6,500rpmまでアクセルを踏み込み続けて初めてピークに届く。同じ「プラトー→高回転での再加速」という基本構造を持ちながら、GRヤリスの方がより高い回転域までエンジンを回し切ることを前提にした設計だと言える。信号発進のような低速域の扱いやすさだけでなく、峠道の登りやサーキット走行のようにギアを1段引っ張ってから踏み込む場面で、この高回転側の「もうひと伸び」が効いてくる。
駆動方式にも触れておきたい。ZC33Sが2WD(前輪駆動)なのに対し、GRヤリスはアクティブトルクスプリット4WDシステムを備える。制御システムを扱う仕事の視点から見ると、前後輪へのトルク配分をリアルタイムに変化させる仕組みは、工場のライン制御で複数のアクチュエータに負荷を動的に配分するロードシェアリング的な考え方と重なる部分があるように感じる。応答を速くしようとするほど制御ループの設計は難しくなり、路面ミュー(摩擦係数)が急変する場面での配分の追従性が走りの質を左右するはずだが、この点は機械工学・車両制御の専門知識に基づく評価ではなく、あくまで畑違いの職業からの類推であることは断っておきたい。雨天のコーナー立ち上がりや、轍の残る路面での再加速など、前輪だけでは駆動力を路面に伝えきれない場面で、4WDは有利に働きやすい。
トレードオフもある。4WDのハードウェア(トランスファーやリヤデフなど)を積む分、車両重量はRC・6MTの最軽量構成でも1,240kgあり、ZC33S(970〜990kg)より250kg以上重い。同じ「軽さを武器にするハッチバック」というくくりでは語りにくく、コーナリングの軽快さよりも駆動力の路面への伝わりやすさを重視した仕立てだ。またグレード間の重量差も見逃せない。RZとRCは同じトランスミッションで比較すると40kgの差があり、Aero performance packageの有無を含めた最大幅では50kg差になる(GR-DAT・6MTいずれも同様)。RCは競技参戦を前提にしたグレードで、公式資料上もフルオートエアコンではなくエアコンレスのヒーター、ディスプレイオーディオも非装着といった具合に快適装備が削られており、軽さと引き換えに日常使いの快適性を落とした構成になっている。街乗り主体ならRZ、競技用のベース車両として軽さを取るならRCという住み分けだ。
なお、本体価格についてはトヨタ公式の主要諸元表PDFに記載がなく、本記事では「データなし」としている。オプション価格(18インチパッケージ117,700円など)は同PDFに記載があるものの、グレードごとの本体価格は別途トヨタ公式の価格ページで確認する必要がある。
4. まとめ
GRヤリスは、3,250〜4,600rpmでフラットな400N・mのトルクプラトーと、そこから6,500rpmまで約1,900rpm分伸び続ける出力特性を持つ、直列3気筒ターボならではのエンジン特性が骨格になっている。ZC33Sより高い回転域まで踏み込んでこそ本領を発揮する設計であり、そこにアクティブトルクスプリット4WDが加わることで、雨天やワインディングでの駆動力の伝わりやすさという2WD車にはない武器を持つ。ただしその代償として車両重量はZC33Sより250kg以上重く、RC系グレードでは快適装備も削られる。軽さそのものを楽しみたいならZC33Sのようなライトウェイト2WD車、路面を選ばず踏み込める余裕を求めるならGRヤリス、という選び方になるだろう。価格帯については本記事執筆時点で一次資料から確認できておらず、購入検討時は別途公式情報の確認をおすすめする。
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